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ムーンウォークやりすぎ

kamome7440

本文

         風が吹いてる・・・。

      夜の深さが――葉脈を伝って、

    潤い、僕の身体に染みこんでゆく・・・。

     循環する。月が満ち――てゆく・・

     風が無性に波を、感じさせる――。

      紫の花が、ほら、咲いてる・・。

    あれは、本当は白い花なんだけど・・・。

       月の色に染まっ・・て――。

    あの暗闇の中で、まったくと言って、

     劇的な変化をする。あれは・・、

    百合だね。まっしろな――百合・・。

     なんてきれいな――花だろう。

    そしてなんてきれいな・・・名前――。

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[bg residential-street-1]









         彼女に会いに行くんだ・・。







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[se wad-up1]

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[bg house]



[page][bg station-square]









 

             





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 電車に乗って、何処までゆけるかなんて考えているわ

けじゃない。出発地. 駅名、目的地。施設名、住所・・・。

ただ、人生って、そんなにしかつめらしく考えたもんじゃ

ない。そんな気がする。電車に初めて乗ったと僕が、言

えるのは、確か五歳の時だったと思う。未来への希望を

語るように、世界は色んな表情を見せた。窓にへばりつ

き、小さな僕は、母親の手を放れて、この世界というもの

を見つめていた。ここが何処かなんてわからず、多分、

それがどういう乗り物かもわからず、車窓の景色に揺れ

ながら、僕は『都会』というものを見つめた。華やかその

街-Cityに、音楽が聴こえてくる。



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[bgm yokaze]







     「わたしね、引っ越しする。」

     「え?」

     唐突な、彼女の言葉は――。

     僕には理解不可能で・・。

     









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 百合は、中学校の時の同級生だった。美しい目、美し

い手、美しい髪・・なんて言ったら、僕が彼女にゾッコン

だった、ということが、わかるだろう。アルトの聴きやす

い声に、時折混じる甘えるような猫なで声。ねえ、百合、

君は多分、色んなこと、僕に教えてくれたよね。実は、

彼女と親しくなったのは、この駅だった。彼女は花柄の、

派手なワンピースで、女の子が女の子するためのよう

な服を着ていて、麦藁帽子をかむっていた。多分、派手

さを少し誤魔化すためのものだろう。でも首元には、ネ

ックレスが揺れていて、少し大人びて見えた。百合は、

これから電車に乗って何処かへと出かける。僕は、ちょ

うど、家に帰るところだった。



[page][bg train]





        「箱崎君よね?」

        僕は、もちろん、

        大分前から気付いていたけど、

        あれ・・あれ、と二回言った。 

        「あれ、琴川さんじゃにゃーか!」

        大体、男というものは、ネコ。

        ぷっ、と彼女がふきだして、

        僕の猫キャラも定着した。





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        でも、百合・・。

        君は少し、無防備すぎる。

        「ねえ、箱崎君、よかったら――

        これから、ちょっと、どう?」

        



[page][bg downtown]

 もし、十六歳の僕が、人生を振り返って、これが七不

思議ですと言うなら、その一つに間違いなく入るのは、

この時だ。「そーゆー台詞は、男に言わせろ。フ・・モテ

る男はつらいにゃー」と、いきなりふざける僕。それに、

目を見張って、ふきだす、百合。でも、考えてもみろよ、

別に、二枚目ってわけでもない。クラブでバリバリって

わけでもない。確かに僕は陸上部で、少しは汗を流し

ていたけど、優勝したとかいうクチでもない。多分、こ

いつの気まぐれだろうな、と思う。でも女の子の気まぐ

れって、思う以上に、どきどきする。それに、僕は、彼

女のことを大分前から、見つめていたわけだし――。

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     「お父さんの、ネクタイ買おうと思って・・」

     「お父さんって、パパか?」

     と、いやらしいニュアンスをこめるが、

     百合はそういうのがよくわからないので、

     「そう。誕生日プレゼント。」



[page][bg downtown-evening]

 夕暮れって、一人で歩いてると、すごく淋しいんだ。

何だか、後ろぐらいことや、切ないことを思い返して

るような気がする。心を浮き立てるような音楽に、耳

を傾けている時はいいんだけど、あてない空想に耽っ

て、自分が子供だって気付いて嫌になることや、本当

に、とても小さな、懐疑の芽。自分へと向けられた、

銃口。その時、あきらめたこと、悔しかったことを思い

だしたりする。 静脈管の中へ、時計の針の中へと、

僕は消えていく。何かを見失ってる気がする。時々、

これが本当じゃないって気がする。そんな途切れた夢

の前で立ちすくんだまま、一歩も歩けないような気持ち

になるから――。



[page][bg black]











    顔のわりに、目はすごく大きいのな――。





[page][bgm none][bg downtown-night]





      「買った買った。」

      と、はしゃぐ百合。

      「でも、もう七時ですよ・・・お嬢さん!」

        中学生の一人歩きは、

        感心しない――。

      「箱崎君もでしょ?」

        ゲームセンターの景品が、

        ぽろっと、腕から滑り落ちた。





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[bg station-square-night]

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[bg school-gate-night]

[se scissoring-nails]





 夜遅いし、物騒だからと、送ってくよ、と言ったら、すん

なりOKで、僕の方がビックリした。警戒心ゼロ。僕は猫

か。いや、もちろん、そんなつもりも全然ないんだけど。

それでも、折角ボディーガード役を任命されたわけだし、

少しでも男らしさをアピールしようと、肩をこわばらせて

いたら、腕大丈夫、ちょっと重いかな、と荷物の心配を

されてしまった。いつもこうなんだ。



[page][se cat2]













          学校に、通りかかる――。



   





[page][bgm shin-on]

 その時、何にも思わなかったけど、思い出すと、あの

時、百合は、もしかしたら数ヶ月後の転校を知っていた

んじゃないかな。どうもそんな節がある。突然、立ち止

まって、もうあと少しね、と言った百合は――その時は、

そうだな、学校生活もあと一年と少しだもんな、と僕は

肯き、ぼんやりと不気味に浮かびあがるホラーの舞台

にしか思えない校舎を見つめながら、しかし今日は得

をした、なんというか、得をした、と思っていた。オヤジ

さんの誕生日もタイムリーだった。ありがたい。よくわか

らんけど、感無量、と思っていた。もちろん、このあと、

家に帰ったらエロゲー的妄想する。申し訳ないけど、

オカズにする。男って、どうしようもない生き物だから、

自然、そうなる。ごめんだけど、そうなる。

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でも、物憂い表情で――

                 校舎を見つめる百合に・・・





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       「今度よかったらデートしないか?」





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迷惑かも知れないけど――



                  ここは言う時だと思って・・・





[page][bg classic-classroom]

 どうして彼女を見るようになったのか、全然思い出せ

ない。教室で、百合は大抵真面目な顔をして、お勉強

していた。自慢じゃないが、僕は寝ていた。死んでいた。

勉強全然わからん。とか、言いながら完璧にケイラクヒ

コーを突かれていた。ユアーショックだった。僕はウルト

ラマンになりたかった。仮面ライダーになりたかった。

というか、勉強のない国へ行きたかった。将来は、絶望

的だったけど、肉体労働すりゃ生きていけるだろうと思っ

ていた。でも人間って、何処でどんな風になるのかわか

らない。僕はこれから数ヶ月後、おそろしく勉強すること

になる。結果はどうあれ、人生で死ぬほど勉強して、彼

女と同じ学校へ行くことを本当に夢見ていた。

[page][bg classic-school-passage]













        恋って、すごい――。





[page][bg library]

 図書室なんて、絶対入りたくもなかったのに、百合が

そこで読書をしているから、僕まで、難しい漢字だらけ

の本を読んでる。ウルトラバカコンテストがあったら、

絶対に一番とる自信があったけど、たくさん本を読んで

る内に、俺ってわりとこういうタイプだったのかな、と誤

解してしまう。「今日はこんな本を読んだの。」という話

を聞きながらの帰り道――別にそんなに大したことじゃ

ないんだ。別にむずかしいことじゃないんだ。頭がよく

なくても、きちんとやれば色んなことって出来るんだ。

ただ、彼女の読書の話は、いつでも丁寧で、要点をき

ちんと抑え、キャラクターの説明、ストーリーも分かり易

かった。僕の場合、これがすげえんだよと、いきなり見せ

場から始まり、後は大抵、百合に聞かれて答えた。

[page][bgm none]

[bg black][text-color white]













       ――好きだな、と初めて思った。





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[bgm yokaze]







     「わたしね、引っ越しする。」

     「え?」

     唐突な、彼女の言葉は――。

     僕には理解不可能で・・。

     

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 その時、僕は足に力が入らないのに気付いた。花が

はらはらと花びらを開くように、百合の唇を見つめたま

ま、僕の思考が殆ど途切れてる。シェイクスピアの夢

幻劇のように記憶がぼんやりとしてる。乗客が、動物

の顔にも見えた。ここは動物園のような気も、いまじゃ、

する。百合は、目を伏せ、一週間後に転向することを、

僕に告げた。でも、ちょっと待って、ちょっと待ってくれよ。

一昨日まで、いや、昨日だってそんな話はなかった、唐

突すぎる。何があったんだよ。どうしてそうなんだよ、と

僕は言った。すごく混乱していた。受験勉強もしてた。

図書室で一緒に本を読んだ。そういう生活が、ずっと続

くと、勝手な僕は、思っていた――。

[page][bg black]

          風が吹いてる・・・。

      夜の深さが――葉脈を伝って、

    潤い、僕の身体に染みこんでゆく・・・。

     循環する。月が満ち――てゆく・・

     風が無性に波を、感じさせる――。

      紫の花が、ほら、咲いてる・・。

    あれは、本当は白い花なんだけど・・・。

       月の色に染まっ・・て――。

    あの暗闇の中で、まったくと言って、

     劇的な変化をする。あれは・・、

    百合だね。まっしろな――百合・・。

     なんてきれいな――花だろう。

    そしてなんてきれいな・・・名前――。

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彼女のいない卒業式――

                 彼女のいない高校・・・





[page][bgm intermission]













        でも、もう我慢できない――。





[page][bg downtown-evening]

 彼女とは、相変わらず続いてる。夏休み、冬休み、

彼女は僕に会いにきた。「全然、変わらないよ・・」と

彼女は言った。でもね、百合。そんなに単純なことか

な。 電車で数時間もかけなきゃ来られない。通う高

校も違う。毎日顔も合わせない。たまに電話はする。

毎日メールする。でも、会いたい。会って――また、話

をしたい。こんな奴、好きにならなきゃよかったな、と

思う。百合、それが本当だよ。でも、嫌いになれない。

彼女が来た帰り際の、さみしそうな顔を見ると、しっか

りしなきゃな、と思う。心配かけまいと、ありがと、また

来るね、と言う百合を見てたら――。



[page][bgm none][bgm clapping-long]













           百合――。





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 彼女が服飾のクラブに進んで、その服が、どういう経

緯かは不明だけど、とある著名なデザイナーの目に止

まって、ちょうどその人のファッションを展示しているデ

パートの一角に百合の服が飾られてる。今日は、その

最終日。僕はメールで場所や、日時を知っていたけど、

何だこれはって思うくらい猛烈な拍手で、コンサートに

突然迷い込んだ少年みたいに、頭がくらくらした。デパ

ートの9階。確かこっちの方だと、およおよしながら歩

いていったら、これだ。ふっと――拍手の真ん中にい

るのが、百合だと気付いた。どういうことだ、と思う。

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         「夢なんです・・・」

        と、百合はマイク越しに喋った。

         「服をデザインするとか、

        それで有名になろうとかじゃなくて、

        大好きな人に、――

        着てもらいたい・・・。」



[page][bgm starlight]







         百合が、僕に気付いた――。





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          微笑む、百合・・・・・・。





[page][bg downtown-night]

 僕は、少し、とぼとぼと歩いた。サプライズというつも

りで、わざわざ来たんだけど、なんだか、百合がすごい

ことをやってるらしいぞ、ということを知って、一体自分

は何をしているのかと思って。デパートから、出て、とぼ

とぼと、歩いて、まったく見知らぬ町を百合と手をつない

で歩く。「いつも、いい時に、箱崎君はいる。」なんて、こ

いつの優しい発言に、心底落ち込んで。「いつも、すま

ん。正直、来なきゃよかったな、と思う。」「どうして?」

どうして、ってお前――あそこは、お前のキラキラしてい

る場所じゃないか。俺はどうだ。俺は一体何をしてた。

いや、なんだか、こいつにはずっと勝てないなという気

がして。本当に俺はこいつの彼氏なのか、と思えて。



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       「今でも、あたしのこと好き?」





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             「どうして?」







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 百合は、立ち止まり、すごく淋しそうな顔をした。

 「本当は、すごく淋しいの。」

 「いや、俺だって――」

 「そうじゃなくて・・、毎日会わないでしょ。顔だって、

たまに送ってくれる写真だけ。電話しても、毎日かけ

たら、面倒くさく思われるでしょ。」

 「お前、馬鹿か。」

 と僕は言ってから、

 百合の目が泣きそうになったので、

 あわてて、いや、違うんだと言った。

 「恋人だろ。」



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              うん――。









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 「むしろ、ずっと俺は百合に感謝してるんだよ。知って

るだろ。俺はウルトラバカなんだよ。勉強なんか、いま

でこそちゃんとするけどさ、百合とこんな風になってなか

ったら、今頃、マジで十五歳で就職してるか、スポーツ特

待生! いや、間違いないね。間違いない。じゃなかった

ら、近隣でも有名な大馬鹿高校に入って、煙草とシンナ

ーを覚えてきてしまう。いや、間違いないね、間違いない。

本も読んでない。百合がいなかったら、クラシックも聴いて

ない。ショパンと、モーツアルトと、チャイコフスキーの違い

もわからない。いや、間違いないね、間違いない。それも

これも、全部、百合のおかげだ。時々思うよ。でもだから、

時々すごく自分とお前が釣り合ってないように思うよ。」



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            「馬鹿ね・・・。」





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 「箱崎君は、ちょっと正直すぎるだけよ。本当は、大体

みんなそうなのよ。勉強が好きな人なんて、まず、いな

いし――大体、・・・大体、変よ。いつも、あたしが言いた

いこと、あなたが言うんだから――ねえ、箱崎君、実は

ね、また、あっちに帰れそうなの・・・今度は、もうお父さ

んやお母さんが何言っても、何処へも行かない。絶対

行かない。本当よ。・・ずっと一緒にいたい。キスしたい。

一緒に笑ったり、泣いたりしたい。鬱陶しいかもしれな

いけど、毎日顔が見たい。会って、話をしたい・・・これ、

さっきの会場で飾ってた服。箱崎君に会ってたら渡そう

と思ってた。絶対似合う。似合うと思って、作ったの。

その――恥ずかしいけど、着て。」

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           変な服だった――。





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袋を開けた瞬間に――



                ちょっと後悔した・・・



[page][bgm daily-life]













      スケスケのブラアアアック――。







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        おまいさん、あっしは、

        マイケルジャクソンと違うよ。





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       「と、それはともかく――」

      と、誤魔化しながら、袋に戻した。

      すげえ、がさごそいわせながら戻した。

       「百合、・・・」

      と、僕は彼女の顔を見つめた。

      ものすげえ無理矢理、両頬をおさえ、

      ものすげえ無理矢理に、

      話をそらしながら、僕は言った。

       



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        おまいさん、あっしは、

        マイケルジャクソンと違うよ。







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            ――違う。







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            「おかえり。」





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      百合は僕の手に頬ずりしながら・・、



            「ただいま。」



あとがき

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