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Synergy【6】幕間―まくあい―3

朝乃みちる

本文

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 過ぎた夢など戻ってこない。

 中秋の夕映えは、ただただ赤く染まるだけ。



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「ブチネコ」

 美冬は、たい焼きをかじってこう言った。

 その声色は低く、淡々としていて、大人びていた。

「この前死んだ……時雨アキのあだ名。

顔がまだらになってる奴が、猫っかぶりしてるように見えるんだって」

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 夕日が差し込む素っ気ない部屋。

 ローテーブルに向かい合って座っているのは、栗色のボブが可愛らしい、童顔の女性。

「自他ともに認める裁き屋さんが、『天(そら)の会』とやらの仕業じゃないかって思って調べてる奴ね」

 彼女は凪波(ななみ)と名乗る。本名は分からないが、誰も知ろうとしない。

 ナナミはふと、美冬の手首に視線をやった。

(ネコの……美冬ちゃんの、リストカット……)

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 眞琴の助手になったというのに、ナナミは殺しの仕事をさせてもらえなかったのだ。

 グロテスクなやり方じゃなけりゃあ人を手にかけることくらいできるんだから、と主張したはずなのに、まともに相手にされなかった。

 それは、彼女がナイフだの拳銃だのの使い方がまるでなっていないというのもあったのだが。

 眞琴がナナミを口説き落とした本当の目的は、殺しとは別なところにあった。



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「そういや美冬ちゃんも、人前でいい子になるって聞いた。

でも、本当はおとなしいのは苦手なんでしょう。私知ってるよ」

 美冬は、突き刺さる視線に嫌悪感を示した。

「あんたどこ見てんの」

「ほら、やっぱり。あなたはそっちが本性。

何かあるとすぐ人を睨むから、男の子にモテないんじゃないのー?」

 ナナミが茶化すように笑うと、すかさず美冬が「でも金があれば買えた」と返した。

 ナナミは目をぱちくりさせた。

「凪波みたいな人でも買うの? 男」

「は?」

「ないか。女優だし」

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 おずおずと、続きがどうなったのかナナミは問うた。

「未遂」

 美冬、小麦粉でできたタイのしっぽをかじった。

「避妊してもらって、本番まで頼んだのに……抱きしめられると……肌が刺されるみたいに痛んだ」

 刺されるのはこっちの方だ、とナナミは思った。

 こんな娘と一週間同居してくれ、なんていう頼みなど引き受けなきゃよかった、と。

「ま、甘く熱っぽい波が来ない時もあるよね」

 しかし彼女は、ひとまず本音は胸の引き出しにしまっておくことにした。

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 それから三日ほど我慢したが、やはりナナミは美冬のような類の娘を好きになれなかった。

 それでも仕事だ。嫌いなら嫌いなりに付き合おうと、ナナミは努めた。

しかし……彼女の「嫌いなりの付き合い」は、しばしば美冬の地雷を踏むことになるのだった。

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「美冬ちゃんの部屋着、男っぽいのばかりね」

 衣服を拝借しようと、クローゼットの扉を開けてブツブツと呟くナナミ。

「やぁよ? ここまで寝食を共にしておいて、美冬ちゃんが本当は男だなんていったら」

「嫌……か」

 ナナミがくるりと振り向くと、表情を曇らせた美冬がすぐ後ろに立っていた。

「あなたには悪いけど、私はもうちょっと可愛らしいとこが見たいな」

 返事はない。そのまま、いくばくかの時が流れる。

 窓の外には、この空気に似つかわしくない名月。

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(やっぱり私はこの子が嫌いだ!)

 ナナミはとうとうしびれを切らした。

「あんたさ」

 彼女にしては珍しく、その場を切り裂くような声色だった。

「男だと言い張って、つっけんどんな言い方をすれば、自分を守れるとでも思ってんの?」

「……何なの? お前」

 ナナミと美冬は睨み合った。

「リスカじゃ死ねないけど、生きることもできないね。無防備なあんたは」

「空音を引きずる馬鹿の言うことじゃねぇな」

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 ナナミは歯を食いしばり、美冬の頬を勢いよくぶった。

「どうせ分からないでしょうよ……大事な人に置いていかれることが、どれだけ悲しいのかなんて」

「じゃあお前は、人の期待に添えようとして身を削って、それでも駄目だった俺の気持ちが分かるの?」

 その答えなら既に出ていた。

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 ふたりは険悪なムードのまま眠りについた。

 そのまま朝まで過ごし、一日の仕事をこなす。

 ナナミは段々といたたまれなくなった。

 カッとなった自分を恥じて、テレビ電話越しに美冬に謝った。

 そして最後に付け加えた。「あなたの気持ちなんか、分かるわけない」と。

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『……そんなものだよな』

 美冬は苦笑いを浮かべた。

「ふふっ。やだぁ……美冬ちゃんってば、可愛い」



 眞琴が考えるほど、女という生き物は甘くない。

あとがき

これである程度の区切りがつきました。

本当はこういう、なんてことはない日常芝居みたいなのをずっと書いていたいんだけど、読むとなるとずっと読んではいられないよね……
この後はもっと救いのない話が出てくるんだよね……(汗

【お借りしました】
http://www.hmix.net/ (音楽素材H/MIX GALLERY)

今回お借りしたBGM、実は高校生くらいの美冬が登場するブラウザゲームにも使っていました。
『幕間』のストーリーにだいぶ関係しているので、ハッピーエンドじゃなくてもいいや、というお方はどうぞ。

http://wcoco.jp/works/show/593

(つづき)
http://wcoco.jp/works/show/594

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