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冬になったら会いましょう

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「はぁ……さむーい」

白い息を吐き出しながら、あたしはひとり呟きを漏らす。

今日は冬休みを利用して、実家から少し離れたおばあちゃんの家に遊びに来ていた。

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どうやら、おばあちゃんは買い物に行ってるらしく、まだ家にいないらしい。

だから予定よりも早く駅に着いてしまったあたしは、そこら辺でぶらぶら暇つぶしをすることにした。

そしたらちょうど近くに公園があったので、ここで待っているとおばあちゃんにメールをする。

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「もうちょっと、着込んでくればよかったかな?」

ベンチの前で立ち止まったあたしは、首に巻いたマフラーを口元まで上げて言葉を続けた。

 コートを着込んで、マフラーを巻いて。

 厚手のタイツをしっかり履いても、寒いものは寒いのだ。

 寒いのは好きじゃない。

 だから、あたしは冬が好きじゃなかった。

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「キミも待ち合わせかい?」

そんなことを思っていると、上から声が降ってきた。

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「こんにちは、お嬢さん。今日も冷えるね」

声の方を見上げると、いつの間にかそこには誰かがいた。

あたしみたいにコートを着込んで。

なぜかマフラーを首だけでなく、頭全体に巻いている。

マフラーに包まれた顔は、暗くてよく見えない。

まん丸なお目々が二つ、ぱっちりと開いていて。

そして、でろんと鼻水を一本垂らしている。

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「うん、そうなの。あたしは、おばあちゃんを待ってるわ」

そんな小首を傾げる彼を見て、あたしはこくんを頷いた。

「キミは驚かないんだね」

「……どうして?」

 彼は驚いた、と言うようにパチパチを瞬きする。

 あたしはそれが不思議で、つい尋ねてしまう。

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「ボクたちをみた人間は、大抵すぐに逃げ出すものさ」

『ニゲル! ニゲル!』

 肩を竦めるように、冗談っぽく答える彼。

 その頭の上で、彼と似た――彼よりも少し小柄なものが。

 マフラーですっぽり包まれた暗闇が、跳ねるように声を上げた。

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「ホラ、ボクらはこの通り些か格好が異形だろう? だから、仕方ないとは思ってるけどね」

彼はそう言うと、自らの手を伸ばした。

よくよく見ると、コートは着ているが、その腕は途中からなくなっているようだった。

あたしが足だと思っていたのは、長く長く伸びたコートの裾が足元まで垂れていたようだ。 

垂れた裾は、ぐるりぐるりと螺旋を描いて、まるでスプリングのようになってる。

実際、彼に足と呼べるものはなかった。

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「ううん、ぜんぜん怖くなんてないわ」

あたしは、平然と彼の言葉を否定する。

「確かに人とは変わっているけど、そういう人もいるって、おばあちゃんも言ってたから」

彼自身が言うように、端から見れば奇怪だと言える姿なのかもしれない。

でもあたしにとって、彼はどこか身近な存在だった。

それは小さい頃、おばあちゃんが語ってくれたお話のおかげだと思う。

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『冬の寒い日にはね、ちょっと不思議な人たちに出会うことがあるの』



『例えば、コートを着込んで、頭にマフラーを巻いて。鼻水を垂らしている彼……とか、ね』



『顔は一切、見えなかったわ。暗闇の中、ぱっちりと開いた目が見えるだけ』



『でも、その人はぜんぜん悪い人じゃないのよ』



『私たちとは少しだけ、姿形が違うだけ』



『だから、もし――』



『あなたが出会った時は、怖がらないであげてね』

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「だから、怖くなんてないの。むしろ、可愛いくらいじゃない」

おばあちゃんの話を思い出しながら、あたしはにっこりと笑って答える。

まるでおとぎ話の登場人物に出会えたようで、心はどこか躍っていた。

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「ハハ、可愛い……か」

『カワイイ! カワイイ!』

マフラーを巻いた彼は、アタシの答えを聞いてふっと笑みを漏らした。

彼には目以外が顔にはないので笑っているか分からないが、少なくとあたしはそう思う。

その証拠に小さな彼も、頭の上も弾んでいる。

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「そんなこと、初めて言われたよ」

『ハジメテ! ハジメテ!』

どこか嬉しそうに、彼は言葉を続けた。

彼に合わせるように、小さな彼も嬉々として声を上げる。

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「あ、そうだ」

昔、おばあちゃんに言われたことを思い出して、あたしはポケットの中をまさぐる。

そして目当ての物を発見すると、それを彼の前に差し出した。

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「はい!」

「……これは?」

「ハンカチよ。あなた、寒がりだって、おばあちゃんに聞いてたから」

「ボクが使っていいのかい?」

「うん! だっていつかあなたと会ったとき、困らないように持ってたんだもん」

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目の前に差し出されたハンカチを見て、ぱちぱちと瞬きをする彼。

小首を傾げながら投げかけられた問いに、あたしはえっへんと胸を張って答える。

小さい頃、おばあちゃんに彼の話を聞いた時から。

あたしはずっと、ハンカチを持って歩くようにしていた。

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「ありがとう、キミは優しい子だね」

『ヤサシイ! ヤサシイ!』

躊躇いがちに、彼は地面に垂らしていた手を縮ませて、ハンカチを受け取る。

そして器用にそのまま顔にハンカチをあてがうと、チーンと音を立てて鼻をかんだ。

小さな彼も彼に手伝ってもらって、同じように鼻をかむ。

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「ありがとう。おかげで、すっきりしたよ」

『スッキリ! スッキリ!』

「どういたしまして」

 満足したような声色で、彼はお礼の言葉を述べる。

あたしも長年の備えが役立って、どこか嬉しく笑いながら頷く。

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「ひゃあ~! おーまーたーせー!!」

すると前方から、賑やかな声が聞こえてくる。

「やれやれ、ようやく着いたのか」

声を聞くと、彼は溜め息混じりに呟きを漏らす。

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「いや~、風が強いもんだから、頭が飛ばされちゃってサ! 必死に追いかけてたんだよー」

彼に倣うように声の方を向くと、そこには蝶ネクタイを結んでバーマンズジャケットに身を包んだ人がいた。

ただ変わっているのは、その人には頭がない。

代わりに空洞から紐が空へと伸びていて、その先にはウサギをの形をした風船が浮かんでいた。

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「いい加減、その頭をなんとかした方がいい」

「そんなこと言っても、これはオイラのアイデンティティーだからネ! どうにもこうにもできないのサ!」

悪びれる様子もなく、オーバーなリアクションで答えるウサギの彼。

今度はあたしがそれをぱちぱちと目を瞬かせながら見る番だった。

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「おや、この子は? 見ない顔だネ!」

「さっき知り合った子だよ。キミが来るまで、話に付き合ってもらっていたんだ」

「そうか! オイラの友人が世話になったネ!」

ウサギの彼はようやくあたしに気付いたのか、風船の顔を傾かせて首を傾げる。

マフラーの彼は、その問いに代わりに答えてくれた。

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「う~ん、オイラ見て驚かないとは、見込みのある少女だ。是非ともゆっくり語り合いたいところだが、すこーし時間がないのサ!」

「時間が押してる。早く行こう」

「残念だネ! またいずれ、機会があれば会おうじゃないか! アデュ~、お嬢さん!!」

あたしをじろじろ見て、ウサギの彼は残念だと繰り返し声を上げる。

そして投げキッスのような所作を取ると、怒濤の勢いで去って行った。

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「それじゃ、ボクも行くよ」

ウサギの彼の後を追うように歩き出すと、マフラーの彼はアタシの方を振り返る。

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「久しぶりに、人と話せて楽しかったよ」

「うん。あたしも楽しかった」

「ハンカチ、ありがとうね。いつか必ず返すよ」

「ううん、大丈夫よ。それはあなたにあげるわ」

「そうか。でも機会があれば、お礼はさせて欲しい」

どこか残念そうに目を細める彼に、あたしはふるふると首を振って答えた。

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「それじゃ、またいつか」

『バイバイ! バイバイ!』

「うん、またねー!」

後ろ手を振って、彼は踵を返して歩いて行く。

小さな彼を頭に乗せて、彼は歩き去って行った。

その姿が見えなくなるまで、あたしはぶんぶんと大きく手を振る。

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「お待たせ。寒かったでしょう?」

ちょうど彼を見送ったあと、おばあちゃんが迎えに来てくれた。

「ううん、大丈夫よ」

「偉いわね。ご褒美に、今日はご馳走よ」

「わーい! やったー!」

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おばあちゃんが掲げている買い物袋を見て、あたしは声を上げてばんざいをした。

きっとこれから、腕によりを掛けて、あたしの大好物を作ってくれるに違いない。

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「あ、そう言えば……」

「どうしたの?」

おばあちゃんの家に向かう道中、思い出したように声を上げる。

「昔おばあちゃんが話してくれた人にね、今日あの公園で会ったの!」

「まあ――それは本当?」

公園での出来事を思い出して、あたしは声を弾ませながら話し出した。

おばあちゃんはそれを聞いて、口に手を当てて驚いたように声を漏らす。

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「うん! マフラーを頭に巻いた人と、それから頭がウサギの風船だった人に会ったの」

「……そう。あなたは今日、貴重な出会いをしたのね」

嬉々として語るあたしを見て、おばあちゃんは柔和な表情で目を細める。

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「私も昔、彼らに会ったことがあるの」

「おばあちゃんも!?」

「ええ。ちょうど、あなたと同じ年頃だったかしら。あの公園で、マフラーを巻いた彼に会ったの」

昔を懐かしむように、おばあちゃんは穏やかに笑いながら答えてくれた。

あたしと同じように、おばあちゃんも彼らと会っていたと分かると、なんだか嬉しくなってきた。

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「でも、会えたのはその一度きりだけ」

「え……もう会えないの?」

「彼らは普段、山奥に住んでるの。この時期には、何十年かに一度だけ用事があって出てくるみたいね。だから頻繁には、会えないの」

「そう……なんだ」

てっきり、また近いうちに会えると思っていたあたしは、その話を聞いてがっくりと肩を落とす。

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「それとね。彼らの姿を見ることができるのは、子供のうちだけなの」

「……?」

「大人になるとね、彼らのことが見えなくなっちゃうの。彼らは人間とは少し違う姿をしてるでしょ?」

「うん。確かに少し、面白い格好してるけど……」

「彼らはね、人間じゃないの。神様……に近いのかしら? だから大人に近づけば近づくほど、その姿を捉えられなくなるのよ」

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「じゃあ、あたしはもう……あの人に会えないの?」

おばあちゃんの話は、あたしには少し難しかった。

でもその中で分かるのは、あたしはもうあのマフラーを巻いた彼に会うことができないということだった。

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「いいえ、それは違うわ。姿を見ることができなくても、彼はあなたのそばにいるわ」

「見えないのに……そばにいる?」

「ええ、そうよ。彼らはね、〝隣人〟って呼ばれてるの。隣にいる人で隣人。彼らと私たちの住む世界は違うけど、遠くから見守ってくれてるわ。だから私も寂しくないの。だって姿が見えなくても、私の隣で今もそばにいてくれるんだから」

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「……うん。それなら、寂しくない」

姿が見えなくても、そばで見守ってくれている。

だからこそ、隣人と彼らのことを呼ぶ。

そう思うと、さっきまで胸に充ちていた悲しい気持ちが薄らいでいくような気がした。

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「だからね――もし、あなたに子供ができたとき、彼らのことを話してあげて欲しいの。少し驚くかもしれないけど、ぜんぜん怖くない。そう伝えてあげることが、私たちにできることだと思うわ」

そして最後、おばあちゃんは穏やかに笑いながら言った。

彼らと出会った人間が、彼らのためにできること。

かつて少女だった頃、彼らに出会った人はこうやって今日まで想いを繋いでいる。

そんな輝かしい気持ちを感じながら、あたしは頷いて答えるのだった。

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「――うん!」

にっこりと満面の笑みを浮かべて。

少し奇妙で、少し奇怪な。

彼らたちに思いを馳せながら、あたしは誓いを立てるのだった。

――いつかまた、出会える時を信じて。

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~数十年後~

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「はぁ……寒い……」

公園のベンチの前で、一人の少女が白い吐息を見て呟きを漏らしていた。

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「キミも待ち合わせかい?」

そんな少女の隣から、かけられる声が一つ。

声の主はコートを着込んで。

なぜかマフラーを首だけでなく、頭全体に巻いている。

マフラーに包まれた顔は、暗くてよく見えない。

まん丸なお目々が二つ、ぱっちりと開いていて。

そして、でろんと鼻水を一本垂らしている。

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「…………」

少女はそんな奇っ怪な彼の姿を見て、ぱちぱちと目を瞬かせる。

するとポケットからハンカチを取り出して、それを差し出して言葉を続ける。

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「母から、ハンカチは手放すな、といつも言われているので。お貸しします」

そんな少女を見て、マフラーの彼はどこか懐かしそうに目を細める。

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「いや、実はハンカチは持ってるんだ。もっとも、借り物だけどね」

彼はそう言うと、ハンカチを取り出して嬉しそうに言葉を続ける。

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「急なお願いで悪いのだけど、これをキミのお母さんに渡して欲しい」

取り出したハンカチを少女に渡すと、彼はどこな尊いものを見るように穏やかに笑った。

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「何十年もかかったけど――これでようやく、返すことができる」

そう言った彼の表情は、顔がないので定かではないが。

どこかはにかむような、そんな笑顔を浮かべていたに違いない。



[END]

あとがき

このお話は以前に、かかし陽太さん(http://www.pixiv.net/member_illust.php?id=708376)がTwitterで投稿されたイラストを#フォロワーさんの絵を小説にさせていただく のタグに便乗させて小説にさせて頂いた物をサウンドノベル化したものです。
元の小説は下記となります。
http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=4751779

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