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あの幽霊は今何処に

takirenn

本文

{一日目 始まりの土曜日}





「……ん……あれ?」

 土曜日の夜中、目が覚めた、しかし体が動かない。

「ん……ぐ……」

(これは……もしかして)

「んぐぐぐん!? (金縛り!?)」

 叫ぼうとしたが口も動かない、怖い、すごく怖いぞこれ。

 唯一動く目で周りを確かめる、右の方に白い光が見えた。

(!? 幽霊か、ゆうれいか~!!)

 パニックになっている俺を更に怖がらせるかのように白い光は俺の上まで移動してきた、もう頭が真っ白だ。

「動けないでしょう……」

 白い光の方向から女性の声が聞こえた、俺の体が縮まった(動けないので多分気のせい)

「うら……」

 白い光が薄れていき徐々に幽霊の姿が浮かび上がってきた。

「うらめしや~」

 お決まりのセリフと共に幽霊が完全に姿を現した。

「う……う……」

 やはり声が出ない、幽霊の姿、髪は黒のロングストレート、少し大きめの目、白い服、そしてなにより

「美しい!!」

 声が出た!!

「え、は……へ?」

 その幽霊、いや女性は目をまん丸にして少し固まった後に消えていった。

「ああ……」

 しばらくして体が動くようになったので水を一杯飲んで寝た、恐怖はもう無かった。









{二日目 失敗の日曜日}





 起きると朝の十時だった。

「少し寝すぎた」

 歯を磨き朝飯を食べて着替えた後に俺は近くの本屋に行った。



「えーと、オカルトは……」

 俺は数冊の幽霊に関する本を買った、それを一日……いや約半日ほどかけて読みきった。

「なるほど……わからん」

 数冊買った本の内容はすべて違う定義が書かれていて何が本当なのかは全然わからなかった。



 そして………………夜!!!!

「よーし!! 寝るぞ!!」

 俺は普段ではありえない九時に布団に入った。



 約ニ時間経過



「……寝れん」

 流石に早すぎたようだ、てかあの幽霊を思い出すと全く寝れない……いや怖いとかじゃなくて。



 それから約一時間後、結局十二時に俺は寝た……はず。







「……う……」

(来た! 来たぞー! 金縛りだー!)

 動く目で近くに置いておいた時計を見る、大体夜中の二時のようだ。

「……うら……うらめし……」

 少し控えめな声がしたあとしばらくの沈黙(もちろん俺は喋れません)

 そして意を決したような大声が部屋に響き、昨日の女性が出てきた。

「うやめしやぁぁぁぁー!!」

「可愛い!!」

 声が出た! いやそれより噛んだ! 可愛い!!

「へえぇぇぇ!!」

 彼女は目をまん丸にして大声を上げて消えていった、しばらくして体が動くようになった瞬間俺は頭を抱えた。

「失敗したぁぁぁぁぁ!!」











{三日目 緊張の月曜日}



 一昨日の夜、私はいつものように人を驚かそうとした、今日のターゲットは一人暮らしの男性だ。

(ターゲットにする基準は一人暮らし、近くにいる一人暮らししか狙わない)

 いつものように金縛りにした、いつものように怖がるのが面白くてたまらなかった。

 もうひと押し、そう思って姿を見えるようにしてお決まりの言葉(怖がってる人には定番が効果抜群)

「うらめしや~」

 そう言うと男性は目を見開いて呻き声のようなものを出していた。

 これは怖がってる、面白い、そう思って控えめに笑った(本気で笑うと失神してしまう人がいる)

 男性は少しの間固まった後に口を開いた。

「美しい!!」

「え、は……へ?」

 私は意味が分からず姿を見えなくして部屋から立ち去った。



 昨日も同じような結果となり、月曜日、三度目の正直だ。

「今回こそ驚かせる!」

 私は誰にも聞こえない大声で決意を固めて夜を待った。





 夜中の二時、私はあの男性の部屋を除いた、ぐっすり寝ているようだ。

「えーと……えい!」

 私は男性に金縛りをかけた、男性の目がすぐ開いた。

「こんにちは」

 私が口を開く前に男性が口を開いた、この人の口に金縛りは何故か効かないようだ。

 私は驚かせるために用意した顔(主に血ノリ等を想像してつけた)を男性の目の前に顔を突き出した。

「…………」

 男性は目をまん丸にして言葉を失った、成功か。

「ふふ、ははははは」

 少しの間の後男性は思いっきり笑い出した、私はついムキになって叫んだ。

「何がおかしいんですか!」

「な、何がって……その顔……なんなの」

 確かに鏡には薄らとしか映らないので大体でやったがそんなにおかしかったのだろうか。

「な、な」

 今回も失敗した、一旦退避することにした。

「待って!!」

 部屋から出ていこうとした私は手に何かがすり抜ける感覚を感じた。

 後ろを振り向くと男性が私の手を掴もうとしていた。

「えっと……」

 私は言葉を失った、まだ金縛りは解いていないはずなのに……

「あの、お名前を」

 私は真っ白になった頭で自然に答えていた。

「えと……羽馴……麗華」

「羽馴さん、ですか」

「えと、それじゃ!」

 私は頭が回らないままその部屋を出た。



















{四日目 意地の火曜日}



 翌日私はあることに気づいた。

「昼に出ればいいじゃない」

 そう、幽霊は夜に出るというのはただ最初の光が見えやすいからだけのこと、いつ出ても気づかれさえすればいい。

「よぉーし、怖がらす!」

 誰にも聞こえないので大声を出して決意を固める、ここまで来たら意地でも驚かしてやる。

 流石に大勢の中出るのは気が引けるので男性をつけてみる事にした。

「ありがとうございましたー」

 男性は単位制の大学に通っているようだった、今日は休みにしてコンビニでバイトをしているようだ。

 その後も男性の後について買い物、そしてようやく男性は家に帰った、いよいよだ。

 私は不可視の状態でテレビを見ている男性の目の前に立った、大きく息を吸い込み可視状態にすると共に大声をだした。

「わー!!」

 間違えた! これじゃあ{怖がらす}じゃなくて{驚かす}だ、完全なるミス!!

 今までのように少しは固まるかと思っていた男性は目を輝かせて……

「ひっ」

 また大声を出されるかと思って咄嗟に身構えた(触れられないので意味はないんだけど)

 しかし男性は大声を出さず落ち着いた声でこう言った。

「こんにちは、羽馴さん」

 大声で元気な男性しか見たことなかった私はその落ち着いた優しい声に少しドキっとしてしまった。

(いやいや、騙されるな)

 心の中で一瞬現れたその感情を一瞬で消した。

「えっと……こんにちは」

 とりあえず返事をした、男性はテレビを消した。

「あの、どうぞ」

 そう言って男性は横に置いてあった椅子をこちらに差し出した、とり合えず座った。

「えっと、幽霊……ですよね」

 男性はその落ち着いた声のまま私に話しかけてきた。

「はい、幽霊です」

「その、質問していいですか?」

「……」

 私は口を閉じた、人から珍しい好奇心の目で見られるのはあまり心地の良い事では無い。

 少し黙っていた私の気持ちに気づいたのか男性が口を開いた。

「あっ違うから、好奇心とかじゃなくて……いや好奇心だけどまた違うっていうか……」

「ふふ」

 慌てて混乱している男性が面白くて私は笑ってしまった、すると男性は動きを止めて私の方向を見た。

「えと……何かいるんですか?」

 私はそう言って後ろを振り向くがなにもなかった、私は話を変えようと話題を変えた。

「あの、質問ってなんでしょうか」

 男性は我に返ったように頭を振ってこう言った。

「羽馴さんはなんでここ……えーと、地上界にいるんですか?」

「えーと、それは……」

「何か、未練があるんですか?」

 図星だった、これ以上話せない、これ以上話してしまうと人に甘えてしまう、他人を求めてしまう、そう感じた私は部屋から消えようと席を立った。

「それじゃあ」

 そう言って部屋を出ようとして男性に背を向ける、あっけにとられていた男性が口を開いた。

「あの、最後にもうひとつ!」

「なんでしょうか」

 男性の方は振り向かず極力冷たい声でそう答えた。

「あの、未練が無くなったら自動的に……本人の意思と関係なく天国に行くのでしょうか」

「……いえ、一回この世界に霊体が馴染んでいるのでここにとどまることはできます、では」

 不可視になって部屋から出る直前、男性の声を背に受けた。

「あなたの未練!! 俺が晴らしてみせます!」



 私は部屋を出た、男性の声は扉に阻まれてもう聞こえなくなっていた。











{五日目 捜索の水曜日}



 昨日、火曜日のことだ

「未練……か」

 晴らすと言ったものの未練がわからないんじゃあ何もできない。

 俺はインターネットで名前を検索してみた。

「えーと……!!」

 俺はある新聞社の記事を見つけた。

{狂気、ただ殺したかった、残虐な通り魔}

 そこに書かれていたのは数ヵ月前に起きた通り魔事件の記事、羽馴さんはその被害者で数日後に死亡したらしい。

 俺はその記事に関する情報を調べた、羽馴さんの母親が出ているニュース動画で俺の手は止まった。



 羽馴さんの母親の言葉はこうだった。

{あの子、多分さみしがっています、私達の家系は長生きで……あの子、多分一人ぼっちなんです}

「まさか……これか?」

 俺はすぐさま学校用のカレンダーを書き直した。



 翌日、つまり今日、俺は図書館にいた、読んでいるのはもちろん幽霊関係の本だ、昨日の夜羽馴さんは出てこなかった。

「なんとかして……」

 なんとかしてこっちから羽馴さんに接触したい、その思いで本を調べ、書いてあった物に必要な物を揃えた。



 幽霊が出やすいと言われる夜に簡単に出来る方法をすべて試した、しかし何も起きなかった。

「これもダメか……」

 あと試していないのは二つだった、そのうちのひとつを試そうとした時、目の前が真っ暗になった、立ちくらみのようだ。

 その後の体調は優れず、俺は二つを試せないまま寝ることにした。

 ベッドに入り少しして睡魔に身を任せようとした時、足の方に羽馴さんが見えた……気がしたが睡魔に耐え切れず俺は眠りに落ちた。





「わ……ダメ……」

 数時間後、おそらく水曜日の夜中(寝ぼけていたからわからないが)呟く声が聞こえた。 

「ん……どうしました?」

 寝ぼけたままの頭で聞いてみた。

「えっ……起きていたんですか?」

 その声で分かった、やはり羽馴さんだ。

「まだ寝ぼけていますけど」

 少し笑いながら起き上がった、しかし羽馴さんの姿は無かった。

「あれ……夢……か?」

 俺はただ部屋の壁を見つめるばかりだった。











{六日目 変化の木曜日}



 私は男性の部屋の裏に一人でいた、時間は午後の六時頃。

{あなたの未練!! 俺が晴らしてみせます!}

 数日前出会ったばかりの男性は見えないはずの私に向かってそう言った。

「…………」

 目から涙が落ちた、声だけはなんとか抑える。

「……うう」

 嗚咽が漏れた、慰めてくれる人はもういない、忘れていた、押さえ込んでいた感情が溢れ出してきた。

 人間というのは生物の中でも霊的な物の影響を受けやすいらしい。

「だから……」

 だから人間と霊が共にいると人間は霊に影響され霊に近づいていくのだ、つまり死に近づいていってしまう……だから……

「羽馴……さん? どうしたんですか?」

 あの男性の声が聞こえた、不可視にするのを忘れていたようだ、私は見えないように涙を拭いて男性の方を向いた。

「なんにもありません」

 わざと冷たい声を出す、すると男性の顔が少し歪んだ。

「羽馴さん!」

 男性が少し大きな声を出した、男性の顔を見ると真剣な顔になっていた、なんとか表情を変えずに冷たい声のまま答えた。

「なんでしょうか」

「そんな声出さないでくださいよ」

 これ以上言わないで、心の中でそう叫びながら冷たく言い放つ。

「この話し方でわからないんですか? 私にかかわらないでください」

 男性は真剣な顔のままで口を開く。

「わかりますよ、わざと突き放そうとしてるんですよね、なんでですか?」

 私は口を閉じて男性の反対側を向いた。

「何言ってるんですか、理解できていません、それじゃあ」

 私がそのまま壁に入ろうとすると男性は静かな、そして力強い声で言った。

「あなたは一人じゃありませんよ」

 私は男性の方を振り返った、男性はそのまま話を続けた。

「俺が、俺でよければ、あなたの傍にいます」

 その言葉を聞いた私はその場にいることに耐え切れず壁の中に入った。

「待ってますよ!! 夜にまた会いましょう!」

 男性はそう叫んだ。









{七日目 決意の金曜日}



「……失敗したかなぁ」

 昨日の夜、羽馴さんは現れなかった、流石に強引過ぎたのだろうか。

 そう思いながら学校に行った。



 帰ってからは何もする気が起きなかったのでただテレビをつけて椅子に座っていた。

「あーあ」

 何もせずに夜、ただベットに寝転がっていた。



「何してるんですか? だらしないですよ」

 聞こえたのは最後に聞いた冷たい声じゃなく、椅子に座って話した時の声だった。

 咄嗟に起き上がって後ろを振り向くとその声の主、羽馴さんがそこにいた。

「羽馴さん」

「昨日はすみません、気持ちが整理できなくて」

「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

「羽馴……さん」

 俺が無意識に呟くと羽馴さんは優しい顔で口を開いた。

「未練……晴れました」

「え……?」

「あなたのおかげでわかったんです、知っている人がいなくても……それが当然なんですよね」

「……」

 俺は羽馴さんの話を静かに聞いていた。

「新しい世界に来たんです、それに知らない人だって……優しい人だっているんですね」

 そういって羽馴さんは俺の方に近づいて言った。

「これで……あっちの世界に行けます」

 俺はその意味を少し考えて始めて口を開いた。

「行ってしまわれるんですね」

 羽馴さんは少し悲しい顔をして

「すいません……」

「どうしても、行くんですか?」

 我ながら未練がましいとは思うけど諦めきれなかった。

 羽馴さんは少し間を置いて力強く言った。

「決めたんです」

 俺はその一言に羽馴さんの決意を感じた、これ以上は無駄、そうわかっているのに諦められない。

「でも……」

 もう少しだけでも、そう言おうとした俺を羽馴さんが制した。

「決めたんです、明日のこの時間、最後に会いにきます」

 そう言って羽馴さんは見えなくなった、声も、動く音も聞こえなくなった。





{八日目 土曜日(午前) 男性は導かれ}



 次の日、羽馴さんとの別れの日が訪れた、俺は大学を休んでずっと羽馴さんの事を考えていた。

「羽馴さんは今何処にいるのだろう」

 それが今日の口癖になっていた、しばらくして時計を見ると午後になっていた。

「もうこんな時間か」

 そう言って立ち上がった瞬間目の前が真っ暗になった。









{八日目 土曜日(午後) bad or happy?}



 昨日、男性に成仏する事を告げ、不可視になった後羽馴は涙を流した。

「う……うぁ」

 そして羽馴はその場から逃げ去るように走っていった。



 そして今日、別れの日、羽馴の頭は働かなかった、ただ思うのはあの男性の事ばかり、数日前に出会って私に大切な事を教えてくれた人の事ばかりだった。

「……よしっ」

 男性の部屋の前、羽馴は決意した。

「最後は、笑って別れよう」

 こういう時のベタな決意なのだがそれが羽馴にとってこの世界での最後の決意、大切な事だった

 可視状態にして羽馴は扉をくぐった。

「……お別れに来ました」

 羽馴はできるだけ明るい声でそう言って部屋の中に入った。

「!?」

 部屋に入った羽馴が見たのは部屋の真ん中で倒れている男性だった。

「まさか……」

 羽馴は男性に近づいた、男性は息をしていなかった。

 羽馴が予想していた最悪の事が起きてしまった。

 羽馴は急いで男性の体を調べた、男性の体の中には魂はもう無く、成仏していったようだ。

「そんな……!!」

 羽馴はは外に出て空を見て言った。



「ごめんなさい、そして待っててください、必ず会いに行きます!」

 そう言った羽馴を光が包んだ、成仏をする前触れだ。

 成仏する直前、羽馴は呟いた。



「あの人……あの幽霊は……今何処に……」

あとがき

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