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スターゲイザー

asami ako

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逃げ出したい夜が来た。





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どうしても逃げ出したくて、だけど全てを捨てることは、僕にはどうしても出来なくて。





やさしい世界へと逃げることが出来たならどんなにいいだろうと思った。





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息の詰まる、生き辛い世界から逃げ出したくて



家を抜け出して走った。



夜道をただひたすらに走った。





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とても不思議な夜だった。



星の降る夜。





夜空の星がいくつもいくつも頭上を流れて行く。





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走った、走った、僕は走った。真夜中を駆けた。



どうしても逃げ出したい夜だった――





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「イチカ……?」



「ちかちゃん……?」



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星空から降ってきた少女は笑う。





「ちかちゃんに会えて、とっても嬉しい」





空夜にはたくさんの光が降り注いでいた。





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「イチカはどうしてココにいるの?」





この生き辛い世界では絶対にありえないことが目の前で起こっているのに、



どこか冷静なのはきっと、真冬の夜のせい。



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あの日、知らない世界へ羽ばたいたイチカ。



そんなイチカの小さな手と繋がっている。



感じるその温もりは本物だけど、もう二度と感じることの出来ないものだって思っていた。





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どんなに思い出そうとしても、



思い出すことの出来ない温もりだと思っていたのに。





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イチカは何でココにいるの?





「えっとね」



「空から落ちちゃったの」





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イチカは星の子供になっていた。



僕の愛しい子は、夜空に光る星の子供になっていた。





「今日はみんなで空を滑ってたんだけど、間違えて落ちちゃったの」





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「空から落ちたら、ちかちゃんに会えたよ」





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「ちかちゃん」





やわらかく笑うイチカは僕の――





「ねえちかちゃん、もっとこっち来て」





僕の大切な――





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君のことを守れなかったあの日から、



逃げ出したい夜が始まった。





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真冬の夜、逃げ出してきた僕は星の子供に出会った。



それはよく知っている女の子で、僕の――



綺麗な夜空から足を滑らせて落ちてきたイチカ。





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大切なものを失くしてから気付いた。



失ってからその大切さに気付いた。



いや、ほんとうは気付いていたのに。





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大切に出来なかった。



大切にしていたつもりなのに、違っていた。





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「イチカ」





気付いたら、手の届かないところに行ってしまっていた。



気付いても、もう遅かった。



気付けたら、どうなっていた?





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「ねえ、ちかちゃん」





なにも、心配しなくてもいいよ。





「わたしが空からずっと見守ってるよ」



「っ」



「その為に星の子供になったんだから」





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僕の逃げ出したい夜を、イチカは全部、最初から知っていた。





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僕たちは“あの日”から悲しみに縛られて生きている。



だから逃げたくなった。



悲しみに暮れる日々を思い出す夜が僕には耐え切れなかった。



そんな夜から逃げ出したくなったんだ。





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「ゴメン」





その一言が君に言えたら。



何かが変わるのだろうか。



“あの日”に一番囚われているのは、僕だった。





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スターゲイザー









あとがき

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