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Kyrie eleison(sample)

golden_wheat

本文

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Kyrie eleison (sample)



痛覚+(ツウカクプラス)

(主催:Wilhelmina)

denkinovel製作:golden_wheat(穂崎円)



*BL表現を含みます。

*特定の団体等には一切関係ありません。

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 Kyrie eleison

 主よ 憐れみたまえ

 Christe eleison

 キリスト 憐れみたまえ

 Kyrie eleison.

 主よ 憐れみたまえ



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『我ら、死への道程の半ばにありて』犬塚暁



 中世

 ヴォルフラム(ドイツ騎士団所属修道騎士)



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「口を慎みなさい。それは騎士修道士の語る言葉ではない」

「あなたのそばにいるための肩書きです。この白衣も。この鎧も。この剣も」

 黒十字の縫いつけられた騎士修道士の外套を掴み、手負いの騎士は語気を強めて云い放った。二人はしばし睨み合ったが、騎士はがんとして引かなかった。頭に巻かれた包帯の隙間から流れた血は頬を伝い、白衣を赤く染めている。本人は平然とした顔をしているが、傷は結構深いのかもしれない。

 迫力に気圧されて言葉に窮した修道士が、根負けしたようにため息をついて促すと、騎士は足元に跪いた。左腰に帯びた血染めの長剣を外して横に置き、頭を下げる。

 コンラートが十字を切って祝福を与えると、ヴォルフラムは用は済んだとばかりにすぐに立ち上がり、外套を翻して来た時と同じような大股で聖具室から出ていった。



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「ああやって誘うのか」

 獰猛な獣のように黒髪の従騎士は唸った。狼のような琥珀色の瞳が、怒りに見開かれている。

「ヴォルフラム様のことも、お前はそうやって誘惑したのか」

 先ほどのカールとのやりとりを目撃していたのか、少年は何か誤解しているようだった。ウルリヒが何も答えず無言でいると、ヴァルターは苛立たしげに胸ぐらを掴んで引きずりよせた。

「お前はああやって誘われれば、誰とでも寝るのか?」

「ならば君とは寝ない」

 ヴァルターの胸を押し返して拘束から抜けだそうとすると、逆にもっと強く胸ぐらを掴まれてそのまま壁に叩きつけられた。

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『王と修道士』磯崎愛



 中世

 シュジェール(聖ドニ修道院長)



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 はっきり言おう。余は、シュジェールを好かなかった。のみならず何か得体のしれないものを感じていた。

 おや、ルイよ。そなたには珍しく、心底驚いた顔をしているな。年のわりに落ち着きすぎていると噂されるそなたを驚かすことができて、余はとてもよい気分だ。

 ルイよ、そう不服そうな顔をするでない。余はそなたが心酔する聖ドニ大修道院長シュジェールを怪しい奴だなどと言うつもりはないから安心せよ。

 そなたとて、よくわかっておろう? 余の治世に彼なくば、否、このフランス王国にシュジェールという傑出した人物がいなければ、この国の栄誉と安寧は保たれなかったであろうことを。

 だが、あの当時の余は、シュジェールをどうしても理解できなかった。

 そなた、その理由は察しがつくか?

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 たしかに、わたしはこの修道院の主祭壇に《修道志願児童》として捧げられたものでした。それは父と、わたしを生んで間もなく亡くなった母の願いでもありました。

 あのときお話ししましたように、父は十歳のわたしを修道院に捧げ、それと同時に後添いを迎えました。正直にお伝えいたします。わたしは、貴方様が今に至るまで一度もお父上様を悪く言われたことのないその尊い御心を羨ましくおもうのです。

 修道院に入ってすぐのわたしを誑かした貴族の男は、容姿にも教養にも不足のない、まっとうな人物に見えました。その男はかつてわたしの母の恋人だったと、結ばれることなく別れたと涙ながらにわたしに訴えたのです。後にその言葉がまったくの虚妄であったとわかるのですが——それが、わたしと貴方様がお話しした日のことでした——父は母を語ることなく、わたしは母の面影を求めながら満たされずにおりました。そのさみしさと甘えをあの男は嗅ぎつけたのでした。

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『プロビタス』瀧沢諒



 近世

「カメルレンゴ」



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 互いに黒の司祭服に緋の腰帯を長く垂らした姿で、ただ日常の風景の一つとして歩み行く二人の間に、そうして僅かな緊張が生まれたのを、確かにあの日の自分は知覚しており、改めてこうして眺めれば、自分の実感以上に、場の空気は冴えてひりつく感触であったのを目撃して、カメルレンゴはそっと眉を寄せる。

 告解を、神父様。

 それは常に自分達に課せられた義務であり務めである筈で、信徒から日々もたらされるそれらを受け止め、神の名の下に赦しを与える事は繰り返される無数の祈りを産み、それもまた積み重なって海になる、その過程こそが重要なのだと認識して世界は回ってゆく筈だった。だが。

 それを聞くのは今はやめておこう。

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 教皇の死に際し、カメルレンゴはその死の確認を行う役目を負っている。前教皇の昇天の際のその儀式が眼前に広がって辺りは闇に沈む。

 燭台の明かりに囲まれて、眠る教皇の名が三度繰り返し呼ばれる。時のカメルレンゴはその後に、銀の槌でその額を三度叩く。静まり返ったその部屋で、厳かに教皇の昇天が告げられる。

 祈りの声が満ち、海は嵩を増す。僅かに波を立てた海は、しかしやがてまた穏やかに凪ぐ。

「聖下が昇天されるのなら、お前がそれをするんだろう」

「黙れ」

「黙らない。お前は聖下の昇天以後、空位となった教皇の座を守り、全てを取り仕切って、次代の教皇を選定する為のコンクラーヴェを開催する。前代の教皇の一切を受け止めるのはカメルレンゴだ。だからこそ、聖下はお前をカメルレンゴに任じた」

「あの人は、ただ」

「お前を一番信頼されている。違う、お前だけを信頼されている。だからなのだろう? だから、お前は俺にさえ全てを話さない」

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『灰は灰に』柳川麻衣



 現代

 クリストファー・オキーフ(エクソシスト)



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「汝を逐(お)い落とさん……汚れたる霊、凡ての悪の力、地獄の凡ての悪霊たちよ、イエス・キリストの御名において、去れ。神の創りし者から立ち去るがよい。……侮るなかれ、これは罪人たる私の命ではない、神御自ら、父なる神、子なる神、聖霊なる神が汝に命ずる、十字の印、十二使徒と凡ての聖人、殉教者の血が汝に命ずる……主は汝を駆逐(おいや)り、汝と汝の天使のために永遠の業火を創りたもうた。その口からはするどき刃が出で、主は炎によりて生者と死者と世を裁き給う。……アーメン。」

 ふわり、とクリスが頸垂帯を外し、マイケルの額にあてた。少年の背が跳ねた。クリスが親指で布の上から十字の印を描くと、マイケルは細い悲鳴をあげた。焼印を捺されたような反応だった。身をもがき、とうとう泣きだしたマイケルを、母親のメアリーは自らも泣き出しそうになりながら見守っている。

「汚れたる霊、この神の子を苛む悪魔たちよ……名を明かし、直ちに去るがよい。……汝にもはや時は残されていない……」

 クリスは眉一つ動かさず、淡々と問いかけた。

「主イエス・キリストの御名において命ずる、汝の名を明かせ」

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「はじめまして。クリストファー・オキーフ神父」

「Dicas mihi nomen tuus(汝の名を明かせ)」

「先ほど彼が申しましたよ。わたくしの名はルークだと」

 ラテン語で訊ねたクリスに、ルークはふっと笑って英国風の美しい英語で答え、挑戦的に十字架を見た。

「悪魔祓い師(エクソシスト)がまだ生き残っていたとはね。前時代の遺物もいいところだ」

「ルーク、お前は何者ですか。主イエス・キリストの御名において真実を答えなさい」

「僕は悪魔じゃない。……まあ、神のしもべでもないけれど。わかってるんじゃないの? そうじゃなきゃ、その人を連れて来ないでしょう」

 ルークが不意にケイを指さした。

「こんばんは、ケイ・アッシュ教授」

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『コーリング』穂崎円



 未来

 製造ナンバー66-JO-SE-6-PH ヨゼフ(アンドロイド)



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 瞬きの少ない青い目が、彼をじっと見詰め返す。人間ならばあり得ない、決して逸らされない視線。金色の髪は差し込む虹色を受け、燐光を帯びたようにも見える。

「神様のことなんざ俺は聞いてねえぞ」

「初めに、神は天地を創造された。地は混沌であって、闇が深淵の面にあり、」

「そうじゃなくて目の前の話だ。お前も見てる、あの景色についてだろうが」

「わたしたちは見えるものにではなく、見えないものに目を注ぎます」

「おい」

「見えるものは過ぎ去りますが、見えないものは永遠に存在するからです」

 外の景色がふいに揺らいだ。

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 聞け。

 聞け、イスラエルよ。

 主は私たちの神、主はただ一人。

 止めてくれ。

 呻き声を上げても巻貝の鳴らすキャッシュを通り抜け、声はファズの耳の中へ流れ込む。頼むから止めてくれ、なあお前しっかりしろよ。カクテルパーティ効果。人の耳は人の、生体の人の声により強く反応するように出来ている。なあ聞こえるだろ、応えろよ。夥しいざわめきの中ですら。

 なあ。

「だけど声はどんどん小さくなって」

「……神は、貴方をゆる」

「懺悔」

 言葉を遮り、ファズは嗤った。お前の許しなんか聞いてたまるか。肩を掴んだまま俯き跪く、だがそれは縋り付く形にも似ていた。笑い声に合わせ肩を掴んだ腕は揺れ、白い長衣に虹の影が散る。お前に許されてたまるか。動こうとしたアクチュエーターが再び止まり、静寂は再び訪れる。

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......憐れみたまえ。



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Kyrie eleison



執筆者五名による、神父をテーマにした小説アンソロジー。

サークル・痛覚+(ツウカクプラス)

(主催・Wilhelmina)



2013/04/14 文学フリマ(大阪)  A-15・痛覚+

2013/04/28 超文学フリマ(唐草銀河様依託)

2013/05/05 Comitia  み06b・痛覚+



→more information:

  http://words-in-pain.hacca.jp/pain/

      coming soon.

あとがき

背景素材:http://www.morguefile.com/ より

BGM(加工:golden_wheat)
http://www.hmix.net/music_gallery/image/horror.htm 呪われた子
http://ontama-m.com/ongaku_kanasii.html 過ぎ去ったもの
http://amachamusic.chagasi.com/genre_ensemble2.html 小フーガ(バッハ)

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